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【石坂信也のゴルフ未来日記 Vol.2】ゴルフは、「旅に出る理由」になりうるか。ゴルフ×ツーリズムの可能性を考える

『ぼくらが旅に出る理由』というタイトルの作品を1996年に歌手の小沢健二さんが発表した。この曲は、22年の時を経て2018年ANA「夏の旅割」のCMソングとして起用されている。歌詞の内容とは異なるが、「旅に出る理由」は人それぞれだ。その目的は秘境巡りかもしれないし、そこでしか食べられない郷土料理かもしれないし、はたまた精神統一かもしれない。「旅」は多くの人にとって、年に数回の一大エンターテイメントだ。そのコンテンツとして、ゴルフはもっと成長できるのではないか。近年、観光業のひとつの可能性として注目される「スポーツツーリズム」について、代表の石坂に聞いてみた。

石坂 信也(いしざか のぶや):三菱商事に10年間在職した後に独立し、2000年5月 (株)ゴルフダイジェスト・オンラインを設立。代表取締役社長就任。ゴルフ総合サービス企業として、ゴルフビジネスとITを組み合わせた事業モデルを積極的に推進。2004年東証マザーズを経て、2015年9月東証1部上場。月間総ビジター数1900万人超、現会員数は350万人を突破。 1966年12月10日生まれ。成蹊大学卒。ハーバード大学MBA取得。

――昨年スポーツ庁が「スポーツツーリズム需要拡大のための官民連携協議会」の初会合を開催するなど、日本のスポーツツーリズムを盛り上げようという動きが活発になっています。「ゴルフ」を観光業のひとつの重要なアクティビティとして発展させるために必要だと思うことを教えてください。

私にはこの会社を創業した当時、自ら日本中のゴルフ場を一つひとつ扉を叩いて訪ね歩いていた時期があります。その時に感じたことは、世界のゴルフリゾートと比べると日本のゴルフ場は観光地としてその地域全体との融合が進んでいないということです。日本は世界第3位のゴルフ場数を誇る「ゴルフ大国」ですが、エリア全体でゴルフを動機にしたリゾート開発をしている例は少ない。海外を見てみると、アメリカにはオレゴン州の太平洋沿いの町バンドンにあるゴルフリゾート「バンドンデューンズ」や、カルフォルニア州リバーサイド郡に位置する砂漠のリゾート「パームスプリングス」、アラバマ州の10カ所432ホールのチャンピオンシップコースを持つ「ロバート・トレント・ジョーンズ ゴルフトレイル」など、そこにしかない地形や環境を生かしたゴルフを基軸としたリゾート地域が多くあります。

アメリカ合衆国には、世界に名高いゴルフリゾートが多く存在する

一からゴルフリゾートを開発するのは多大な資金と労力がかかりますが、日本には多くの素晴らしいゴルフ場がすでに存在しています。それらをアセットとして他の観光資源と組み合わせ、地域全体を魅力あるリゾート地として総合プロデュースする。そういったことが今後さらに必要になってくるでしょう。

また、旅のついでに「はじめてゴルフを体験する」というコンテンツがもっとあったらいいのにと思います。例えば、大自然の中で半日ゴルフを体験してみませんか、という観光企画があってもいい。まったくの初心者でも楽しめるような独自ルールを作って、ガイドをつけて、ギアもウェアも貸し出して、3ホールでも9ホールでもいいから体験してもらう。そういった初心者を対象とした「ディスティネーションゴルフ」というものがあったらいいですよね。旅がきっかけになって、ゴルフに触れる機会ができる。ゴルフってこんなに楽しいものなのだと感じてもらう。そういった「旅×ゴルフ」のコラボレーションはあり得ると思っています。

――「ディスティネーションゴルフ」は、訪日外国人の方にもニーズがありそうですね。

そうですね。以前にスキーで、その例を実際に目にしました。東京・御茶ノ水のスキーショップでのことですが、中国から来た方々が「これから軽井沢に行くんだ」とスキー用具を一式購入されていました。ウェアからギアまですっかり買い揃えて、そのまま店舗からスキー場に配送。そして手ぶらで新幹線に乗り、軽井沢に行ってホテルに泊まって「はじめてのスキー」をやるというのです。日本人から見ると随分思い切った行動に見えますが、この旅で「はじめての体験」をし、楽しみ尽くして帰るという気持ちが表れていますよね。そういった、この旅をきっかけに今までにない体験をしたいというニーズに「ゴルフ」というコンテンツで応えていくことは十分に可能だと考えています。

コンテンツとしての“ゴルフ”の将来性について語る石坂

また日本の魅力の一つとして、電車を使ってどこにでも行けるという点があります。日本の鉄道網の安全性や正確性は、世界でも類を見ない最高レベルの水準です。車を使わなくても、そこにしかない景観や秘境のようなところへもたどり着くことができます。また日本の宅配便の正確性や速さも海外にはないレベルですから、先ほど話をした「ショップで必要なものを一式そろえて宅配便で送って電車で現地まで向かい、数日後にはもう体験をしている」ということは十分に可能ですし、なんだかワクワクしますよね。そういった日本にしかないサービスレベルや地形の特性、すでにある観光資源を生かして、さまざまなプランが考えられそうです。

――そのほかに、ゴルフを動機にして、日本へもっと海外の人に来てもらうための考えはありますか。

私がもう一つ材料として思うのは、「アカデミー構想」。アメリカのフロリダ州ブレイデントンに日本人では錦織圭選手なども通った、IMGアカデミーという世界的に有名な寄宿学校・スポーツトレーニング施設があります。ゴルフという領域でも有名で、ジュニア育成を考えたときに選択肢として上がってくる教育機関です。その街には世界中から教育留学をしてくる人たちがいて、それだけで都市が活性化する。日本においても、著名な指導者が多くのプロゴルファーを輩出しているアカデミーは存在します。地域ぐるみでそういった教育機関を盛り上げて、受け皿となるエリアをつくるのも一つのツーリズムですよね。ただ、これは今までさまざまな人たちと話はしてきましたが、事業として成立させるのが非常に難しい分野。強い意志やライフワークとして取り組む気概が必要です。私たちも企業としての体力をつけ、足元の事業を強固にしていきながら、そういった未来への投資、業界全体や社会への貢献を実現したいと思っています。

――最後に、「ゴルフ×ツーリズム」について思うことを教えてください。

ここのところ、「スポーツ×ツーリズム」は日本全体における関心事になってきていると感じています。私も妻や子供と一緒にゴルフを組み込んだ旅行に行くことがありますが、日本には素晴らしい自然資源、文化資源があるにも関わらず、すべてが総合的に結びついてシームレスに体験できる仕組みがまだまだ構築されていないと思うことがあります。ゴルフはその場所でしか味わえない自然・景観を味わいながらできるスポーツですし、そこに行くまでの道中も食や文化を体感することができる、「旅」要素の強いスポーツです。ゴルフをディスティネーション(目的地、行き先)と位置付けて、もっともっと観光業と結び付けていきたい。GDOは「ゴルフ」にフォーカスし続けている企業ですから、こうした可能性を今後も模索し、開拓し続けていこうと思っています。

ゴルフを「旅」の一要素として、もっと多くの人に!

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文:PLAY YOUR LIFE編集部/星 写真:筒井義昭※一部

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