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【石坂信也のゴルフ未来日記 Vol.4】世界最大の展示会で分かるゴルフの「今」。アメリカで考える日本の立ち位置

世界最大のゴルフ展示会であるPGAマーチャンダイジングショーが、今年も米国フロリダ州オーランドで1月22日から24日まで開催された。1954年に始まったこの展示会には、世界中から4万人以上の業界関係者が集結し、ここに来ればゴルフの「今」と「未来」が感じられる。今回は、GDO設立時から来場を続けている石坂に、この展示会で感じたゴルフの現在地、そして世界から見た日本の現状について話を聞いた。

石坂 信也(いしざか のぶや):三菱商事に10年間在職した後に独立し、2000年5月 (株)ゴルフダイジェスト・オンラインを設立。代表取締役社長就任。ゴルフ総合サービス企業として、ゴルフビジネスとITを組み合わせた事業モデルを積極的に推進。2004年東証マザーズを経て、2015年9月東証1部上場。月間総ビジター数1900万人超、現会員数は419万人を突破。 1966年12月10日生まれ。成蹊大学卒。ハーバード大学MBA取得。

―― PGAマーチャンダイジングショーが開催されています。石坂社長は毎年、会場を訪れていらっしゃいますが、今年はどんな感想をお持ちになりましたか?

この20年間、ほぼ毎年PGAマーチャンダイジングショーに来ていますが、近年は特に規模が縮小しているなという印象です。私自身、ゴルフ市場は下降トレンドにあると感じていますが、それに加えて、時代がアナログからデジタルに転換し、商品発表のタイミングも変化しているので、ショー出展のコストを正当化することが難しくなってきているのでしょう。

とはいえ、米国はゴルフにおける世界最大のマーケットです。まだまだショーの縮小傾向を打開する策はあると思います。米国では通常、メーカーごとに展示会を実施しないので、ショーが店舗バイヤーと各メーカーの商談の場になっているという事実は健在です。たとえば、近頃は競合他社との先出し競争になっている感もある新製品発表会を敢えてショーで行って、これに商談会まで一体化したイベントとして開催しても面白いかも知れません。

また、ショーの入場は関係者に限られていますが、ジャパンゴルフフェアのようにツアープロに登場してもらって、一般ゴルフファンの来場を促すことも可能でしょう。周辺コースでプロアマを開催して、プロや関連企業へのロイヤリティ一を高めても良いですし、一般ゴルファーがショーで新製品を体験して、そのまま購入する企画も考えられます。いずれにしても参加企業がひとつにまとまり、業界全体を盛り上げようという意気込みが伝わるイベントにすべきですね。

世界最大のマーチャンダイズショーにも新しい試みが必要

―― 面白いアイデアですね。一方、「ゴルフ市場は下降トレンドにある」とのことですが、その理由をどのように分析されていますか?

インターネットの急速な普及が、大きな要因の一つだと考えられます。特に近年は、Instagram、TikTokなどのSNSや、YouTube、Netflixといったオンラインサービスでエンターテインメントを取得し、瞬時に刺激を得られるようになりました。若者向けの観戦スポーツとして、プレー時間の長いゴルフは難しい立場に立たされています。プレーするにしても持続した集中力が要求される競技のエンタメ性は評価されにくい時代なのかもしれません。

欧州ツアーは、6ホールのマッチプレーなど飽きさせないための新たな施策を打っていますが、米国の対応は意外にもスローです。Top Golfのようなエンタメ感あふれるサービスが参入するなど変革も見られますが、一方でメンバーシップやドレスコードといった伝統も盤石です。若い世代に興味を持ってもらうには、こうした部分でも新しい価値観への変容が待たれるところでしょうし、「そんなゴルフはありえない!」という領域まで踏み込んだトライがもっと必要かもしれません。

ゴルフにも若い世代に向けた世界規模での変化が求められている

―― 市場拡大のためにはドラスティックな改革が必要ということですね。さて、石坂社長は米国に居を構えて1年半以上が経ち、傘下であるゴルフテックの経営という点でも米国ゴルフ界に身を置いていますが、米国視点で日本のゴルフ界はどのように映っているのでしょう?

私が現在住んでいるのは、カリフォルニア州サンディエゴです。サンディエゴには、米国の主要ゴルフメーカーの本社があり、関係者と密接に関われる距離に身を置いています。そこで感じるのは、彼らは日本のゴルフマーケットを知らないし、知ろうとすらしていないということです。

米国メーカーの日本法人は、日本国内でしっかりビジネス展開していて本社からも信頼されています。ですから、米国本社が日本市場をそこまで分析している感じはしません。一方、小規模な米国企業は、巨大マーケットである本国での成功を考えておりグローバル視点になっていません。

日本はガラパゴス化しているという声をよく聞きますが、米国にいるとそれに納得させられます。我々が考えている以上に、世界は日本に興味を持っていません。ゴルフに限らず、日本にいると米国のニュースをよく耳にしますが、米国では日本のニュースなんて皆無に等しいですね。

PGAマーチャンダイズショーでも感じましたが、米国で日本メーカーの存在感の薄さを痛感するのは残念です。日本は全体的に平均点が高く価値観のブレも少ないですが、米国や世界は、人種や宗教だけではなく価値観や感覚まで多様でブレ幅が大きいです。これはゴルフ界でも同じです。日本が世界で通用するためには、そうしたことを理解し、覚悟を持ってコミットしなければならないことを日々感じています。

ゴルフで世界をつないできた GDOの新しいチャレンジはこれからも続く

―― ではGDOとして、そのようなタフな課題に今後どのように取り組んで行くのでしょうか?

日本のゴルフ産業において、AIやテクノロジー分野は世界と比べて遅れています。リアルの多様なニーズをテクノロジーで解消できれば、まだまだ日本も成長することができるはずです。

DOは近年、スノーゴルフやナイトゴルフ、そしてスピードゴルフなどゴルフの多様性を模索しているほか、羽田空港の「GDO Golfers LINKS -HANEDA-」や五反田本社にある「GDO MatchingLAB(マッチングラボ)」をオープンし、ゴルファーと実際に触れ合うことでリアルニーズを掘り起こしています。

ゴルフテックではテクノロジーでレッスンの質を高め、もっと手軽にプレーできるように挑んでいます。新規ゴルファーの最初のタッチポイントである練習場に対しては、Top Tracer導入を推進し、エンターテイメント性を付加しています。これも、テクノロジーを駆使した新たな楽しみ方の提案です。

GDOは2020年が設立20周年となります。これまで、インターネットの利便性を通じてゴルフの敷居を下げ、気軽さや手頃感などを刺激してきました。これからは、リアルとテクノロジーを融合させ、「ゴルフの在り方」に変革をもたらすことで、課題にチャレンジしていきたいですね。

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文・田村一人 写真・角田慎太郎 構成・PLAY YOUR LIFE編集部

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