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「ゴルフのSDGsとは?」はじめの一歩を考える―adidas Golf×GDO 1Dayワークショップレポート

『SDGs』という言葉を耳にする機会が増えた。SDGsとは「2015年9月の国連サミットで採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』にて記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標」(外務省ホームページより抜粋)だ。地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを掲げた目標でもある。これを考えるとき、広大な自然を生かしながら造られているゴルフ場でプレーをするゴルファーも無関係ではいられない。そんな意識を持つゴルフ業界2社が集い、「ゴルフ場でできるSDGsって何だろう」というテーマで開催した1Dayワークショップの模様をお伝えする。

SDGsには17の目標があり、それらを達成するための169のターゲットがある。「持続可能」と聞くとリサイクルや環境問題への取り組みを思い浮かべるが、このSDGsのゴールは、貧困や飢餓問題、質の高い教育の普及、ジェンダー平等から働きがいや経済成長まで、私たちの住む地球が抱える課題を広く網羅している。それらを先進国と途上国が一緒になって目標達成することを掲げているのだ。

5年前に掲げられた目標だが、日本国内においてはまだ浸透や理解が浅く、身近に感じている人も少ないというのが実態だろう。ゴルフをする多くのひとも、おそらくそうではないだろうか。ゴルフは自然と共生しているスポーツだ。このまま環境破壊が続いて、私たちが愛するゴルフをする機会が減ることになったら悲しすぎるし、ゴルフによって自然を壊す側面があるのだとしたらそれもまた放置できない。「持続可能な社会」を考えるとき、ゴルフ界はいったい何ができるのか?

はじめの一歩は、身近なものとして捉えるところから。そのような思いで、GDOはアディダスゴルフのみなさんと、「ゴルフ場でできるSDGsを考える」ワークショップをGDO茅ヶ崎ゴルフリンクス(以下茅ヶ崎GL)で開催した。社会の利便性や経済的合理性の地盤を揺るがす変容の中、環境保護に対する強い意思があることで知られる同社と私たちGDOの思いが重なり、このワークショップが実現した。

同社は、日頃からサステナビリティや環境に配慮した取り組みを実践している。環境汚染対策を例にとると、プラスチックゴミゼロの未来を目指している。同APAC(アジア太平洋地域)ブランドディレクターの木戸脇美輝成氏によれば、「当社では海洋プラスチックゴミの削減に貢献するため、バージンプラスチック不使用に取り組んでいます。プラスチック廃棄物をアップサイクルした特殊素材を使ったゴルフシューズを発売するなどしており、現時点ではアパレルで80%、シューズで75%程度をリサイクル素材で製造しています。2024年までには当社製品においてバージンポリエステルの使用を止め、100%リサイクル素材を使用することを目指しています」という。

SDGsの課題に取り組む参加者たち。楽しみながらも、その表情は真剣

イベントは、まずNPO法人 湘南ビジョン研究所にご協力いただき、茅ヶ崎GLと道路一本を隔てた菱沼海岸でのビーチクリーン作業からスタートした。海岸に落ちるゴミのほとんどは、粉砕された微小なマイクロプラスチックだ。同研究所の小林秀光氏によると、これらは主に家庭などから出たゴミで、自然分解されずに川から海に流出し、波によって砂浜に流れ着いたものだという。

朝一番でビーチクリーンへ。マイクロプラスチックのゴミは思ったよりも大量だ

目線を足元に落とすと、砂浜には数えきれないそれらのゴミが散乱しており、拾っても拾っても終わりが見えない。参加者たちは、プラスチックゴミゼロを目指す企業の一員として非常にショックを受けていたようで、改めて海洋ゴミの問題を体感する機会となった。

その後クラブハウスに戻るとゴルファーはハーフラウンドを、ノンゴルファーはセルフチネイザン(気内臓マッサージ)を体験した。本イベントで2つのプログラムが用意されていたのには理由がある。SDGsでは、地球上の「誰一人取り残さない」ことが誓われている。これは、性別や年齢、国籍、文化、価値観など、さまざまなバックグラウンドを持つ人が互いに認め合い、受容しあうことを意味している。

セルフチネイザンの様子。あらゆる不調の原因をマッサージから探る

アディダスゴルフでは当然のことながら社員同士でゴルフを楽しんでいるそうだが、木戸脇氏によれば「例えば社員同士でゴルフに行こうという話になるとき、自然と頻繁にゴルフをするメンバーのみが集まる傾向にあり、それが当たり前のようになっているのですが、これってダイバーシティと真逆ですよね。ゴルフに消極的な社員が疎外感のようなものを感じているわけではないのですが、一番身近なところで無意識にそんな区別をしてしまっていたので、それは変える必要があると感じていました」。

ゴルファーは、勿論ラウンドへ。コロナ禍で減ったコミュニケーションも活性化

ゴルフをプレーする人もしない人も、ゴルフ場に来れば何か楽しいことが体験できる。これまでラウンドをするだけだったゴルフ場で、ノンゴルファーも対象とした企画を展開すること。そのこと自体も「SDGs」の理念につながっているのである。

そして、最後に体験したのはゲーム型ワークショップ。現在から2030年までの道のりを疑似的にたどりながら、SDGsについて理解を深めることができるカードゲーム『2030 SDGs』を利用した。参加者が3-4人のグループとなり、国の代表者として2030年までに開発目標を達成するというもの。SDGsの本質を学ぶとともに、達成することの難しさを感じる仕組みになっている。

時間とお金とプロジェクトがあらかじめカードとして配布され、足りないリソースは他グループと交換して、目標を達成していくゲームだ。一見、気楽に楽しみながらできそうに見えるのだが、実際やってみると非常に難しい。参加者たちは、四苦八苦しながらゲームに取り組んだ。

「正しい答えがない問題に対しては、みんなで答えを導き出すプロセスが重要であり、そうしたことがこれからの時代に求められているということを強く感じました」。ゲーム後にそう感想を語った木戸脇氏は、社内でもこのワークショップを行ってみたいという意向も明かした。一日で何かが大きく進むことはないが、SDGsの理解と啓蒙という点で手ごたえを感じる有意義なイベントになったことは参加者の表情からも明らかだった。

仲間と共に”答えのない問い”に取り組めたことに大きな意義を感じたと木戸脇氏

多くのひとにとって、SDGsはまだまだ身近なものとは言えないだろう。その言葉を知った上で、リサイクル活動や環境保護運動のことにとどまらない理念を知り、さらに日々の生活で取り組んで、ようやく壮大な目標への第一歩が踏み出せる。

今回のワークショップでファシリテーターを務めた湘南ビジョン研究所の中村容理事は、こう語ってくれた。「まずは、ふだん日常生活で行っていることがSDGsの目標17個のどれに結びつくかをたどってみる。そうすると理解が進みやすいです。例えば、ペットボトルを持たない、といったことは気がつきやすいですが、こうした活動をSDGsのためだ!と思ってやろうとすると長続きしませんよね。つまり、SDGsなんて考えず、自分が楽しんでいることを『持続可能な社会創り』とどう紐づけるかが大切だと思います」。

「SDGsの本質」について説明してくれた、湘南ビジョン研究所・中村容理事

ゴルファーであれば、プレーをするときに誰と関わっているのか? 誰としているのか? ゴルフクラブは何からできているのか? それが出来上がるまでにどんな人が関わっているのか? ということを思い描くだけでも、SDGsの理念を身近に感じることになるという。

そして中村氏は「その分野で関わっていない人を巻き込み、人の多様性を生かすこと自体もSDGsになっています」と言う。まさにこれは、SDGsの鍵となるダイバーシティのこと。「例えば、私はゴルフをしないのですが、私のような人をゴルフ場に巻き込めるかという点も考えるきっかけになります。この茅ヶ崎GLの“市民開放デー”などはその入り口となるイベントでしょうし、逆にゴルフというものを外に持ち出してさまざまな人を巻き込むということもできますよね」と付け加えてくれた。

私たちGDOが運営をする茅ヶ崎GLは「ゴルファーのものだけではない、ゴルフ場」を目指している。こんなにも広く豊かな自然のあるゴルフ場の良さを、プレーしない人にも体感してもらいたい、そして地域の方々との絆を深めたい。もともとはそういう思いから、ゴルフ場を一般開放するイベントなどを多数開催してきた。特別にSDGsを意識してやってきたものではなかったが、「ゴルフをする人もしない人も一緒になって楽しむ」という取り組みそのものが、SDGsの「多様性を認め合う」という考え方につながっていたことに気づかされる機会となった。

ゴルフ場を開放された場所にしていく。ゴルフ場の在り方そのものを変えていく。GDOがこれまで取り組んできた活動を、より確かに「持続可能な社会」や「多様性を認め合う社会」の第一歩としていくためには、少しずつ視野や行動範囲を広げていく必要がある。自分たちやゴルフにできることを足もとから拾い上げていった先に、より良い社会づくりや多くのひとの幸せがあると信じて進んでいきたい。

■adidas社  サステナビリティの取り組み

■イベント運営協力:
― 湘南Work. 公式サイト
― 湘南ビジョン研究所 公式サイト
― GDO茅ヶ崎ゴルフリンクス公式サイト

文・田村一人/写真・角田慎太郎/構成・PLAY YOUR LIFE編集部

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